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第四十三話「借金時計だって?」
咲子 ねえねえ、三瓶子さん。借金時計って見たことある? 三瓶子 いや¿ 咲子 あれって、すごいって言うか、見てると怖いよね。 三瓶子 怖けれりゃ、見なきゃいいでないか。 咲子 それが、そうは行かないのよ。 記者君 そうっすよね。あっと言う間に何百万も利子が増えちゃうっす。 三瓶子 ふん、高利貸しの話かい。 咲子 高利貸しじゃないよ。 徹 どうしたの? みんなで盛り上がってるでないか。 三瓶子 借金時計だってさ¿ 徹 ほう、借金時計ねー。いったい誰の。 咲子 誰のって、国民のよ。 徹 国民って誰。 咲子 国民って、国民よ。日本人みんなよ。 |
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徹 日本人みんなって、僕は借りてないけど。
記者君 国債の話っすよ。 徹 なんだ、国債か。だったら、それは政府の借金でないか。 記者君 それはそうなんすけど、結局は国民の税金から返すしかないっしょ。 徹 なるほどね¿ 咲子 誰からって、ねえ、誰から? 記者君 ほとんどは機関投資家っすね。 徹 機関投資家って、どこの? 記者君 ああ、ほとんどは国内っす。 徹 だったら、何も問題ないでないか。 記者君 問題あるっしょ。国民一人当たり八百万くらいの借金っすよ? 徹 八百万だろうが一千万だろうが、持ってるのは国内の機関投資家だろう? 咲子 ねえ、機関投資家ってどんな人? すっごいお金持ち? 記者君 いや、銀行とか生保とかっす。それと、年金事業団とかもそうっすね。 咲子 えーっ? 銀行に儲けさせるの? 銀行の為に私らが借金返すの? |
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記者君 まあ、そう言う事っす。
咲子 嫌だー! いつも儲けるのは金持ちだけ。私ら貧乏人は損してばっかり。 三瓶子 あんたがいつ損したって? 他人の儲けは関係ないでないか。 記者君 まあ、銀行に儲けさせたくないなら、自分で国債買うしかないっすね。 咲子 だって、暴落するかもしれないって、テレビで言ってたよ¿ 徹 どうして。 咲子 どうしてって、ねえ、どうして? 記者君 外国のファンドが売り浴びせてくるってんじゃないすか? 徹 ほほう、「売り浴びせ」ねー。いったい、どうやって。 記者君 どうやってて、株とおんなじやり方っしょ。 徹 ふーん、もしそうなら、日本の銀行は喜ぶだろうねー。 記者君 えーっ? どうしてっすか。暴落したら、銀行は困るっしょ。 徹 どうして。 記者君 先生、何言ってるんすか。国債が暴落したら、銀行も潰れちゃうっす。 徹 だから、どうやって暴落させるのかって。 |
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記者君 だから、「空売り」っす!
三瓶子 ありゃー、堂々巡りやってるでないか。 徹 君も解らん男だねー。その玉をどうやって調達するのかって聞いてるでないか。 記者君 えっ? ああ、だから市場からっす。 徹 ほほう、そんなに「自由で開かれた大きな国債市場」がどこにあるのだろう。 記者君 えっ? 無いんすか? 徹 有るも何も、日本の国債を暴落させるのにどれだけの金が必要だと思うの? 記者君 ああ、そうか。五十億や百億じゃ話にならないっすね。 徹 まあ、五十億でも百億でもいいんだけど、もし仕掛けてきたら銀行は喜ぶだろうね。 記者君 はあ、その理屈がよく解らないっす。どうして喜ぶんすか。 徹 空売りって、持ってる玉(ぎょく)を安く売ることかな? 記者君 いや、持ってないから空売りっすよね。 徹 そうだよね¿ 持ってない玉を相場より安く売るわけだ。 記者君 安値に怯えて、もっと下がるんじゃないかって。いわゆる「狼狽売り」っす。 徹 どうして狼狽するのかしら。 |
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記者君 はあ、まあ、正確な情報持ってないからっしょ。
徹 と言う事は、情報弱者、つまり素人が多いということだね。国債もそうかなー。 記者君 いえ、ほとんど居ないっしょ。個人向けに宣伝してるくらいっすから。 徹 それなら余計、空売りは難しい。規模がでかすぎる。一千兆円って言ってたけど。 記者君 赤字国債は六百六十兆くらいらしいっすよ、実際は。 徹 うん、それにしてもでかい。国債を一つの株の銘柄と考えれば解り易いでないか。 記者君 そんなでかい会社は無いっすよね。 徹 そうだね。ところで、仕手筋が狙う株はどんな株だろうか。 記者君 まず、会社の内容がいい。積立金が多いとか。 徹 それだけ? 記者君 発行株数が少なくて、浮動株主が多い。 徹 さあ、「日本株式会社」は、それらに当てはまるだろうか。 記者君 最初のはともかく、あとの二つは当てはまらないっす。 徹 と言う事は、空売りしても、それに見合う価格で売ってくれる相手がいない。 記者君 はあ。 徹 もし、そんな動きがあれば、銀行はニヤニヤしながら待ってるだろうね。
記者君 どうしてっすか? 徹 売り浴びせてきたら、どんどん買っちゃう。だって安いんだもの。 記者君 はあ。 徹 清算のため買戻しにきたら、高値で売ってあげる。つまり、往復で儲かる。 記者君 はあ、なるほど。国債の市場が閉鎖的だから、かえって幸いだったんすね 徹 そうだ。閉鎖的だから、うっかり手を出すと大火傷をする。 記者君 なーるほど。暴落の話は解ったすが、借金の返済の方はどうなるんすか? 徹 ああ、これは会計が理解できてないと解らないよ。 記者君 えーっ? 会計っすか? 面倒くさそうっすね。 徹 いや、手順なんか解らなくていいんだ。意味さえ解れば。 記者君 はあ、意味っすか? 徹 ああ。国家予算の決算が単式簿記なのは知ってるね。 記者君 え、単式簿記っすか? そう言えば会社の経理は複式簿記だって言ってたなー。 徹 それでは、記者君は経営者になれない。て言うか、なっちゃいけないんだ。 |
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咲子 あーっ! それだったら、私なれるよ¿ お勤めしてるとき経理やってたもん。
三瓶子 あんたが出来るのは帳付けだけだろう¿ テツが言ってるのは意味でないか。 咲子 解るわよ。飲み屋の領収書でも平社員だと福利厚生費で落とせて……。 三瓶子 不必要不十分条件で却下、失格だね。 記者君 会計が解らないと、経営者になれないんすか? 徹 なってもいいけど、困った事になるでないか? 記者君 儲からない仕事でも、解らずに引き受けちゃうとか? 徹 ああ、そういう場合もあるけど。 記者君 えっ? そういう場合もって、後はなんすか? 徹 ああ、儲かってるのに、儲かってないと思って、会社を潰しちゃった人がいた。 記者君 えーっ? それは無いっしょ。儲かってるのに。 徹 ところがあるんだねー。いずれこの事は小説にしたいと思ってる。 記者君 それだったら、いずれじゃなくって、いま書きましょうよ。 徹 それは出来ない。当事者が生きてる。馬鹿呼ばわりされたら気分が悪いだろう。 記者君 その事に気が付けば、その人にとっても、いい事じゃないすか。 |
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徹 気付いたら自殺しちゃう。これと同じ事が、いま国のレベルで起きかかってる。
記者君 日本でですか? 徹 そう。さっき言ってた借金時計。見たことは無いけど、だいたい想像がつく。 記者君 そうすか? もうちょっと説明してくださいよ。 徹 ああ。いま、国家予算は単式簿記で処理されてて、「入りと出」だけだ。 記者君 はあ、それが悪いんすか? 徹 そう。それこそが元凶と言ってもいい。 記者君 元凶っすか。 徹 そうだ。記者君はバランスシートって知ってるよね。 記者君 はあ、聞いたことはあるんすけど……。 徹 バランスシートが読めないと、本質が解らない。単式簿記では難しい。 記者君 はあ、複式簿記なら、すぐ出来るってことすか? 徹 そうだ。単式の場合は入りと出、つまり入金と出金しかない。 記者君 はあ、それではダメなんすか。 徹 複式なら資産と負債とがはっきりする。国債が増えた分だけ民間の資産が増える。 |
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記者君 どういう意味っすか?
徹 あれは「借金時計」と言うより、「資産時計」と言うべきだろうね。喜ばしい事だ。 記者君 それだったら、なんで財務省は大騒ぎするんすか? ツケを子孫に回すなって。 徹 それは真っ赤な嘘で、彼らはフリーハンドが欲しいだけなんだ。 記者君 フリーハンドっすか? 徹 ここという時、即座に資金を投入したい。馬鹿議員の話なんか聞いてられない。 記者君 ああ、財政投融資っすね。官僚の裁量で使えた。あれ評判悪かったっすもんね。 徹 そう。だから「大泉」さんの郵政改革は失敗だって言いくるめようとしてる。 記者君 そうか、財投原資の郵貯、簡保の金が自由に使えなくなっちゃったってことか。 徹 財務省の意を汲んだ「鶴井」が元大蔵事務次官「災盗」と組んで国有に戻そうとしてる。 咲子 でも、田舎の婆ちゃんなんか大変だって、テレビでやってたよ¿ 徹 山奥の五十戸ばかりの限界集落で、都市並みのサービスを要求するのは我侭でないか? 記者君 病気の婆ちゃんの家。救急車が雪で間に合わなかった。それが行政の怠慢だなんてね。 徹 そう。生存権の侵害だなんて言い出すんでないか? 記者君 ああ、それで先生はリベラルが嫌いなんすね。権利権利って煩いだけっすもんね。 |
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徹 ああ。それから、バランスシートが読めるだけじゃダメ。それじゃ「花見酒」だ。
記者君 そうっすねー。花見酒経済じゃ、「タコ足配当」で、食い終わってお仕舞いっすね。 徹 そのとおりだ。それと「富とは何か」で書いたけど、お金はマグロと同じ。止まっ たら、経済は死んじゃう。その元凶が日本人好みの「清貧の思想」だ。これじゃダメなん だ。いま必要なのは適度な無駄遣いなんだ。そうしなきゃ経済は活性化しない。いい例が、 仙台の景気だ。復興特需で儲かった土木、建築業者が仙台で金を使う。飲み屋、洋服屋、食 物屋が儲かる。そうすると酒屋、花屋、ホステス、洋服メーカー、八百屋、肉屋、不動産屋 が儲かる。それがさらに……と、次々金が動く。これを「乗数効果」と言う。元々、土木、 建築の「消費性向」は高く、儲かればさらなる乗数効果を生み出す。逆に「子供手当て」は 「貯蓄性向」が強く、貯蓄に回っちゃう。おまけに無駄の排除で金を使わせない。「仕分け会 議」は、まさに「亡国会議」だったと言えるね。「乗数効果も消費性向も」知らなかった「鉋 音」なんか、削ることしか知らない。「コンクリートから人へ」なんてのは、根本から間違っ ていたんだけどねー。 |


by iza104
やがてやって来る「新しいステ…